中区本牧活動ホーム事故最終報告書

2020年11月12日、当法人事業所の中区本牧活動ホームの利用者が、日中活動中に自動車を使用した外出中に行方不明となり、その後電車と接触し死亡するという重大事故を起こしてしまいました。ご家族ならびに関係者の皆様には深くおわび申し上げます。
当法人では、事故直後より法人全事業所において、事故防止の必要な取り組みをはじめました。また事故の重大性を考え、監事や弁護士等の第三者で構成される事故検証委員会を立上げ、この事故の徹底的な原因究明及び課題抽出を行いました。
今後、二度とこのような事故を起こさないために法人全体で事故防止の取り組みを現在まで続けてまいりましたが、一定のめどがつきましたので今回最終報告書として事故の経緯、事故検証委員会・調査報告書の概要、再発防止の取り組みについてご報告いたします。

2024年11月

NPO法人新  
理事長 佐藤俊夫

1 事故の経緯について
2020年11月12日(木)
11:40 団体事務所ビル前に本件利用者を含む利用者5名・職員2名が乗った自動車が到着。利用者1名と職員Aが下車しビルエントランス内に入る。職員Bは自動車内で待機。
11:41 職員Aがビルの何階に団体事務所があるかわからず、自動車まで戻ってくる。職員Bが下車。自動車に施錠されているかを確認し、職員2名が自動車のそばを離れる。
11:45 職員2名がともにビルエントランス内に入り、中区本牧活動ホームに連絡し団体事務所の階が4階と確認できたため、職員2名と利用者1名の3名でビル4階の団体事務所に向かう。
11:55 団体事務所での要件を済ませ、3名がビルの外に出る。
自動車内に本件利用者の姿がない事に気が付く。職員2名が交互に自動車の付近を捜索。捜索していない職員は自動車の近くで待機。
12:03 本件利用者が見つからないため、中区本牧活動ホームに連絡。管理者に本件利用者が行方不明であることを報告。管理者は主任に本件利用者グループホーム等に連絡するように指示し、自転車で失踪現場へ向かう。
12:20 職員Bと管理者が合流。捜索を継続。自動車で付近を捜索中の職員Aは主任から連絡を受け、自動車内の利用者と共に中区本牧活動ホームへ戻る。
12:50 管理者が付近の交番に捜索願を提出したい旨相談。警察の管轄が違うため、管轄の警察で手続きするように指示される。管理者は主任に管轄の警察署にて手続きをするように電話で指示。
13:00 主任が管轄の警察署に捜索願の手続きを行う。管理者は総括責任者・中区本牧活動ホーム部門責任者に連絡し、状況を伝える。連絡を受けた総括責任者・中区本牧活動ホーム部門責任者は失踪現場付近に向かい捜索を行う。
13:15 鉄道の踏切内で本件利用者が列車と接触。
14:30 グループホーム職員に警察署より連絡が入り、鉄道踏切で人身事故があったこと、被害者の特徴が本件利用者と似ているため身元確認してほしい旨伝えられた。
15:40 グループホーム職員、管理者、総括責任者が警察署にて人身事故の被害者が本件利用者であることを確認。

2 事故検証委員会・調査報告書について
事故検証委員会は2020年12月24日から2021年3月24日まで計11回開催され、2021年3月末当法人に調査報告書を提出していただきました。

調査報告書は下記の構成(37ページ)となっております。
 第1 調査の概要
  1 当委員会設置の経緯
  2 調査目的
  3 当委員会の構成
  4 事故検証委員会の開催日程と主な内容
  5 調査方法
 第2 調査結果
  1 法人の概要等
  2 本件事故の概要
  3 本件事故の問題点
 第3 再発防止策
  1 法人内の権限分配の明確化
  2 リスク管理に関する教育・研修の実施
  3 利用者情報の取得・共有体制の確立
  4 法人の課題に対する工夫の検討
  5 送迎時や自動車での外出時の課題に対する工夫の検討

3 事故の原因と再発防止の取組
調査報告書では「立ち去りリスクの高い特定の利用者から目を離してはいけない」というルールが徹底して守られていなかったことが本件事故の原因と分析されています。
 このルールが徹底できなかった原因や課題ごとに、これまで行ってきた再発防止の取組は次のとおりです。

(1)事故当日の問題点
事故の原因
①目を離してしまうことに慣れてしまっていたこと
・日常的な送迎で自動車に残した利用者から目を離さざるを得ないという状況を経験することで不安感がマヒしてしまった
②「立ち去りリスクの高い特定の利用者」に当たるかの認識とその共有が不十分
・修正された情報についてあとから再検討がされていなかった
・利用者の特徴を簡単に理解するための資料は、10年以上更新されていなかった
・ヒヤリハットについてまとめられた資料は、事故当時には存在していなかった
・利用者のヒヤリハット等に関する事項についての連絡は、行われていなかった
・職員会議は新型コロナウイルス感染症対策のため暫く行われておらず、代替措置すら設けられていなかった
・職員会議には常勤職員のみが参加していた
・非常勤職員から常勤職員への情報伝達の場や、決まった手段は設けられていなかった
・本件利用者は、本件事故以前にもたびたび自動車内から外に出てしまうことがあったが、情報共有ができていなかった
・自動車前方ドアのかぎを開けてしまう可能性について、情報共有がなされていなかった
再発防止の取組
・日々に生じたヒヤリハットは専用の書式と単独のファイルに整理し、誰でもすぐに記入、閲覧できるようにしました。
・本牧活動ホーム全体職員会議(いしずえ・あおぞら常勤職員合同)を月1回もれなく実施し、その期間におきた事故やヒヤリハットを職員間で情報共有するとともに再発防止策や課題の検討を行っています。非常勤職員には全体職員会議の議事録を閲覧してもらい、不定期ですが非常勤職員会議を設けました。また、これまでヒヤリハット報告書は常勤職員のみが記入していた傾向にありましたが、非常勤職員も意識して記入してもらっています。
・2021年4月に利用者情報の書式を法人で統一し、行方不明リスク・防災情報を追加しました。また、利用者情報は2年ごとに定期更新をしています。

事故の原因
③目を離すことのリスクを理解していなかったこと
・本件利用者が一人で自動車の外に出ても、容易に発見できたという経験を重ねてしまっていることが原因の一つである
・ヒヤリハットを報告のみで終わらせてきたことが積み重なり、ヒヤリハットがどのような重大事故につながるのか、そのリスクを正確に理解することができていなかった
・本件利用者の立ち去りリスクに注意して適切な支援を行うべきところ、そのような対応が十分でなかったことが本件事故発生の原因の一つである
再発防止の取組
事故直後から全事業所の送迎・外出時のリスクの洗い出しと検討を行いました。
・朝夕の送迎時に車内にリスクの高い利用者から職員が離れる時間をなくし、家族・グループホーム職員に車両まで来てもらいます。
・外出時に行方不明リスクの高い利用者がいる場合の利用者・職員の組合せをみなおしました。
・送迎ドライバーの募集を引き続き行っています。

事故の原因
④人選と計画定立が不適切であったこと
・団体事務所での用事は、本件事業所にとって2回目であり日常的な外出ではなかった
・職員二人とも採用後間もなく経験が浅い職員であったが、本件外出に際して責任者から具体的な指示・指導がなされていなかった
再発防止の取組
・日中活動の1日のスケジュール表については、組み合わせ等を複数の職員でチェックし、適切な定立を行うことにしています。

(2)事後対応の問題・施設運営上の問題点
事故の原因
⑤個別支援計画の策定と運用が形式的なものにとどまっていたこと
・本件利用者自身が説明された個別支援計画を理解することはできたと考えるのは難しく、誰が本件個別支援計画について了解・承認していたか定かではない
・本件利用者について「調子に波がある」旨職員が述べたことと、個別支援計画の記載に変更がないことが整合しない
・支援が適切に計画され、実施されているか確認する保護者の関与がなかった
・利用者の状態や有しているリスクを把握した上で適切な支援をするという観点が十分でなく、その結果、重大事故につながりうるリスクのサインを軽視し、又はこれを見逃すことにつながっていた可能性は否定できない。そのようなサインの軽視・見逃しが、本件外出にあたっての人員配置の不備や、事故後の対応等の問題につながった可能性は否定できない
再発防止の取組
利用者情報の適正な取得・共有体制を確立しました。 
・個別支援計画の書式に利用者の要配慮事項(行方不明の可能性など)、部門責任者・活動ホーム所長の確認欄、代理人氏名・押印欄(利用者の意思確認が難しい場合に記入)を追加しました。これにより利用者本人が個別支援計画を理解することが難しい場合に保護者等の代理人が確認していただいています。
・職員会議で利用者の状態や有しているリスクを把握し検討共有を行っています。
  
事故の原因
⑥指導教育の不足
・入職時に、仕事の仕方について教える方式はOJT形式をとっている。しかし、何をどの程度まで指導すればよいかという基準が定まっていないため、指導を担当した職員によって差異が生じていた
※OJT形式…上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法
再発防止の取組
2022年1月より常勤職員・非常勤職員の採用時研修を法人本部でおこなっています。内容は次のとおりです。
・法人理念、各種規則類、虐待防止、報告・連絡・相談(指揮命令系統)、ハラスメント、個人情報、事故・ヒヤリハット、行方不明対応、金銭管理、車両運転などです。
・利用者記録(生活記録表、個別支援計画)に目を通すこと、業務日誌などの記入方法は所属責任者が確認することとしました。
  
事故の原因
⑦連絡が遅れていたこと
・各人が各々の判断で行動をしたり、他の職員に対して判断を仰いだり、指示をしたりしていた
・連絡を受けた管理者は自身も捜索に赴くなどの行動をとるべきではなく、迅速に関係各所に連絡する必要があった
⑧体制が構築されず、各々が行動していたこと
・緊急事態に際して、誰を中心としてどのように行動すべきかが定まっていなかった
・今まで「何とかなってきた」ことが、緊急事態対応の体制整備等を検討することなく、その不備が放置されてきた原因の一つである
・行方不明者への対応について適切な体制が整備されていなかったために、組織として適切かつ迅速な対応が十分にできなかった
⑨責任者の不在・意識の欠如
・リスクマネジメントや緊急時対応について定められたマニュアルは存在しない 
・リスクマネジメントや緊急時対応について職員が共通の認識を有しているといったこともない
・役職を持つ職員に対しても、かかる役職に伴う業務や責任についての研修や指導があった事実もうかがえない
・役職者が何をすべきであるか把握しておらず、そのために当該役職者が責務を全うできていなくとも、そのことに気づき、指導するということができていない
・だれが各種のルールを整備する責任者であるのかわからない、また、わかっていたとしてもどのように整備してよいのかがわからない
再発防止の取組
・行方不明者対応マニュアルを2021年3月に作成、事故対応マニュアルを2021年7月に作成し、全職員に周知しました。その後新入職員に採用時研修として各マニュアルの周知を行いました。各種のルールを整備する責任者は法人全体に係るものは総括責任者、事業所固有のものは事業所責任者としました。マニュアルには対応フローチャートを明記しました。
・毎年11月を事故防止月間と定め、全事業所で行方不明訓練をこのマニュアルに沿って実施しており、責任者や各職員の連絡方法や捜索方法のシミュレーションを行っています。また訓練の内容を検討し必要に応じてマニュアルの見直しを行っています。
・役職を持つ職員に関する業務や責任に関して、再度整理を行い2021年4月・11月に文書処務規程の決裁権限の見直しをおこない周知をおこないました。
・2024年4月より責任者就任時研修を行っています。内容は責任者の業務・決裁内容の確認、指揮命令系統の確認、ハラスメント防止の確認です。

事故の原因
⑩「A作業室」と「B作業室」の間の情報交換の不足
・同一事業所内である「A作業室」と「B作業室」の間に距離感があったため、適切に情報交換がなされず、本件利用者が「立ち去りリスクの高い特定の利用者」にあたると判断するための情報(「B事業所」職員のヒヤリハット)が「A作業所」(本件利用者所属)に共有されていなかった
再発防止の取組
・「3.事故当日の問題点」の項目で前述したように、全体職員会議にて事故・ヒヤリハットの情報共有を行っています。また、早急に周知が必要な事案については緊急の職員ミーティングや朝礼で報告を行なう等、職員間での意識付けを定着させています。

(3)法人の問題点
事故の原因
⑪リスク管理体制の構築の不備
・本法人では、各事業所の事故について、理事会で報告がなされていたが再発防止に向けてどのような体制・ルールを構築すべきかについて検討された形跡までは認められない
・本法人は部門責任者会議の内部に「リスクマネジメント・虐待防止委員会」という組織が設置されており、各事業所について事故・ヒヤリハットの報告は見られるものの、対応策が検討され、事業所の職員に共有・反映するということまではできていない
・法人としてこのようなルールを整備し、周知するものが定められていなかった
・これまでに検討をする端緒はあったが、報告ないし検討の段階で終了しており、実際に対処策の決定や、その基準の作成・周知まで議論が進んでいない
再発防止の取組
・2021年7月より事故防止委員会(2022年5月より事故防止部会)を設置しました。委員を各部門より6名選出(現在は7名)し、各事業所で起きている事故・ヒヤリハットの共有・再発防止の検討、事故に関する研修等の検討を2ヵ月毎に行っています。検討結果は各事業所へフィードバックまた法人全体の課題は理事会で検討しています。事故・ヒヤリハットの基準について事故防止委員会で検討し、随時変更周知しています。
・事故報告書の扱いを次のとおり見直しました。事業所で起きた事故情報の共有・再発防止を各事業所の職員会議を中心に行い事故報告書を作成します。その後、所長⇒部門責任者⇒総括責任者⇒運営委員長⇒理事長の決裁後、法人クラウドにアップロードし全事業所職員の共有を行っています。

事故の原因
⑫事業所間の関与の程度が低いこと
・管理者レベルでは、法人内での横の情報共有が可能な場所がある
・事業所の枠を超えて、運営に関する事項(書式等)が法人内で統一されたというような事実は認められない
・統一の動きがみられないのは、送迎体制や職員の指導・教育、リスク管理体制等に関する点も同じである
・一つのNPO法人という体裁をとっているものの、実質的には個々の事業所が独立した形で運営されている状態に近い
・理事長ないし理事会が、事故予防及び事故対応といったリスク管理体制の構築に対して、イニシアチブを発揮しなかった 
・成り立ちからくる他の事業所への遠慮も要因にあげられる ・各事業所間で職員の経験年数やノウハウの偏りが生じている
・各事業所の独立性が高く、各事業所の有している利点やノウハウが他の事業所に横展開されて行かないことは、本法人の問題点の1つである
再発防止の取組
・2021年4月に利用者情報・個別支援計画などの書式を法人で統一し、行方不明リスク・防災情報を追加しました。利用者情報は2年ごとに定期更新をしています。
・2022年5月より法人内に6つの部会(事故防止部会、虐待防止部会、防災部会、感染症対策部会、地域交流部会、研修部会)を設置し、法人内の常勤職員がいずれか一つに参加しています。他の事業所の常勤職員同士が話し合いを行う機会を設けています。このことにより各事業所の状況を法人内で共有し検討することで、各事業所の利点やノウハウを他の事業所が共有できるようになっています。
・2024年1月より法人本部による各事業所訪問をおこなっており、ファイリングの方法の統一などを進めています。
・理事会の開催頻度は、事故前は年3回程度でしたが、事故後は2020年度6回・2021年度8回・2022年度7回・2023年度6回開催しており、法人課題の検討を継続的に行っています。
・2022年4月に理事長の交代など役員体制の見直しを行い、リスク管理体制の構築を進めることができる役員体制としました。
・職員の経験・知識等を勘案した適正な職員配置について理事会で検討を重ね、2024年4月より、人事雇用配置委員会規則・人事配置実施要項の制定、および「はま職員」「なか職員」の労働条件の統一を行いました。2025年度より計画的な職員配置を行っていきます。

事故の原因
⑬本部機能の脆弱性
・各事業所間の心理的な距離感に加え、各々の事業所が目の前の問題への対応に手一杯な状況であった
・日々の業務への対応を超えて、長期的な視点で法人の問題点を検討し、改善を図っていくということに対して費やせる時間も人手も足りなかったことも要因としてあげられる
・「法人本部の余力のなさ」が、問題意識を有しながらもこれを改善できないという現在の状態に陥った原因の一つである
再発防止の取組
・2022年5月より6つの職員部会を立上げ、各事業所部門の職員が事業所を超えて話し合いを行っており、各事業所間の心理的距離間を縮める取組を行っています。また6つの職員部会に法人本部職員も参加しています。
・2022年5月より毎月1回、理事長・総括責任者・事務長(2023年より活動ホーム所長含む)による「本部打合せ」を行っています。これにより長期的な視点で法人の問題点を検討し、改善を図っていく取組を行っています。
・2024年1月より法人本部による各事業所訪問をおこなっており、目の前の問題だけでなく長期的な課題を各事業所と法人本部で検討を行っています。
      

4 その他
事故当時の理事長は事故後役員報酬を辞退し、2022年3月31日理事長を辞任致しました。また、今回の事故に係る中区本牧活動ホームの職員2名・責任者2名・管理者、総括責任者に懲戒処分を行いました。

5 おわりに
 今回の事故は当法人のリスクマネジメント体制の不備にとどまらず、法人全体の課題が引き起こしたものだと再認識いたしました。事故検証委員会・調査報告書は当法人の様々な課題を詳細に分析しており、再発防止の取組について具体的に何を行ったらよいかを示していただきました。事故後の4年間はこの報告書に基づき、理事会・法人本部・職員集団が様々な話合いを通して、ひとつひとつの課題に対して再発防止のための取組を継続して積み重ねてきました。4年間という長い時間がかかってしまいましたが、再発防止の取組が一定程度行うことができた事を今回こうして報告することができました。
今後同じような事故を二度と起こさないことが、亡くなられたご利用者やご家族並びに関係者の皆様に対する当法人の責務だと役員・職員一同肝に銘じています。
障害のある人たちが住み慣れたまちの中で暮らしていくことを支えることが、当法人の理念です。まちの中の暮らしは楽しいことがたくさんある反面、様々なリスクを伴うことになります。様々なリスクを避けるために何もしないのではなく、行いたい活動を達成するために活動に伴うリスクを把握し軽減する取り組みが同時に必要となってきます。当法人はこれからもリスクマネジメントを行いながら障害のある人たちの暮らしを支えるための活動を行っていきたいと思います。